コロナ禍によるテレワークの普及などもあり、働く環境は以前よりも多様化したと言えるでしょう。
しかし、働くうえで、労災のリスクは避けることができません。近年では、精神障害を理由とする労災の申請も増えています。
この記事では、労災の障害(補償)給付、および、労災認定される精神障害について解説します。
労災保険とはどのような制度か
労災保険は、正式名称を「労働者災害補償保険」と言います。
労働者が業務上の事由や通勤が原因で、病気になったりけがをしたりしたときに、必要な保険給付を行い、社会復帰を促すことを目的とする保険制度です。
労災保険は、原則として、1人でも労働者を使用している事業であれば適用されます。
業種の種類や規模は問いません。また、労働者の雇用形態(正社員かアルバイトか、無期雇用か有期雇用かなど)も関係ありません。
労災保険においては、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」が労働者として扱われます。
したがって、たとえばパートタイマーであっても、労災の認定を受けられますし、労災の保険給付ももらえるということです。
労災には、大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
病気やけがなどが業務によるものならば、業務災害です。病気やけがが通勤によるものならば、通勤災害です。
協同組合法は、持続可能で活力ある地域社会を目指しています。それを叶えるために、多様な働き方や、地域の多様なニーズに応じた事業を促進するのです。
労働者の病気やけがが労災として認定されたときは、労災の保険給付を受給することができます。
労災の保険給付の費用は、原則として、労災保険料でまかなわれています。
労災保険料は事業主が負担しますので、労働者が給与や賞与などから控除される「社会保険料」には、労災保険料は含まれません。
労災には、さまざまな保険給付があります。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。
- ●療養(補償)給付
- ●休業(補償)給付
- ●障害(補償)給付
- ●介護(補償)給付
いずれも、業務災害であれば「補償給付」、通勤災害であれば「給付」という名称になります。
また、労働者が労災で亡くなったとき、遺族に支給される保険給付もあります。
なかには、複数の会社で働いている労働者もいるでしょう。
事業主が同一でない、複数の事業に同時に使用されている労働者を「複数事業労働者」と呼びます。
複数事業労働者に関しては、1つの事業場のみについて、業務災害に該当するか否かを判断します。1つの事業場のみで業務災害に該当しないときは、複数の事業場について総合的に判断します。
これを「複数業務要因災害」と言います。ただし、複数業務要因災害として認められるのは、脳・心臓疾患や精神障害などに限られています。
労災保険の障害(補償)給付とは何か
障害(補償)給付とは、業務災害もしくは通勤災害による病気やけがが治癒(症状固定)したとき、身体に一定の障害が残っている場合に受給できる保険給付です。
ここで言う「治癒(症状固定)」とは、必ずしも、身体が完全に健康な状態に回復したことを指すわけではありません。
病気やけがの症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、それ以上の回復や改善が期待できなくなった状態を言います。
たとえば、以下のような場合に、治癒(症状固定)とみなされます。
- ●外傷性頭蓋内出血の治療後、片麻痺の状態が残っているが、その症状が安定しており、療養を継続しても改善が期待できなくなったとき
- ●腰部捻挫による腰痛症の急性症状が消退しても、疼痛などの慢性症状は続いているが、その症状が安定しており、療養を継続しても改善が期待できなくなったとき
障害(補償)給付を受給するには、身体に残った障害が、労災の「障害等級表」に該当していなくてはなりません。
労災の障害等級には、現在、第1級から第14級まであります。
障害が第1級から第7級に該当するときと、第8級から第14級に該当するときとでは、障害(補償)給付の内容が異なります。
受給できる障害(補償)給付の金額は、障害の等級によって決まっています。
第1級から第7級に該当するときは年金として、第8級から第14級に該当するときは、一時金として支給されるのです。
具体的には、次の3つの合計額が支給されることになります。
- ●第1級から第7級:障害(補償)等年金+障害特別支給金+障害特別年金
- ●第8級から第14級:障害(補償)等一時金+障害特別支給金+障害特別一時金
「障害特別支給金」は一時金で、障害等級ごとに一定の支給額が定められています。
「障害(補償)等年金」「障害(補償)等一時金」については、障害等級に応じて、何日分の給付基礎日額が支給されるかが決まります。
「障害特別年金」「障害特別一時金」については、障害等級に応じて、何日分の算定基礎日額が支給されるかが決まります。
「給付基礎日額」とは、簡単に言えば、労災が発生する前3カ月間の賃金(賞与は含まない)の総額を、その期間の歴日数で除した金額です。
一方、「算定基礎日額」とは、簡単に言えば、労災が発生する前1年間の特別給与(賞与など)の金額を、365で除した金額です。
障害(補償)給付は、身体に一定の障害が残っている場合に受給できる保険給付ですが、業務上のストレスに関連した精神障害の労災申請が増加したことから、精神障害の労災認定基準があらたに設けられました。
それが「心理的負荷による精神障害の認定基準」です。
精神障害の労災認定要件は、下記の3点です。
- ●認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- ●認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6カ月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- ●業務以外の心理的負荷や個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
業務による強い心理的負荷が認められるかどうかについては、「業務による心理的負荷表」に基づいて、評価されることになります。 業務による心理的負荷表には、具体的な出来事が挙げられています。たとえば、次のような出来事です。
- ●仕事の失敗・過剰な責任の発生
・会社の経営に影響するなどの重大なミスをした
・達成困難なノルマを課された- ●役割・地位の変化
・配置転換があった
・部下が減った
それぞれの出来事について、心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」で判断する具体例も記されています。
さらに、業務による心理的負荷表の具体的な出来事には、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシュアルハラスメント(セクハラ)も追加されました。
これにより、パワハラやセクハラによる心理的負荷の評価が、より明確になったと言えます。
パワハラやセクハラに関しても、心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」で判断する具体例が記されています。
パワハラで、心理的負荷の強度が「強」となるのは、以下のような例です。
- ●上司などから、治療を要する程度の暴行などの身体的攻撃を受けた
- ●上司などから、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた
セクハラで、心理的負荷の強度が「強」となるのは、以下のような例です。
- ●胸や腰などへの身体接触を含むセクシュアルハラスメントが、継続して行われた
- ●身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであっても、人格を否定するようなものを含む発言が継続してなされた
労災の保険給付は、労働者が自ら請求しなければ、受給することができません。さらに、保険給付の請求権には、時効が定められています。
病気やけがが治癒した日の翌日から5年が経過すると、請求権は消滅します。この点、くれぐれもご注意ください。