公開日:2023年1月31日
コロナ禍によるテレワークの広まりや、ワーク・ライフ・バランスを重視する動きもあり、働き方の多様化が進んでいます。
また従来から、業種などによっては、原則とは異なる変則的な労働時間の定めもありました。
この記事では、変形労働時間制・みなし労働時間制・フレックスタイム制について解説します。
労働時間の原則と変形労働時間制とは
労働時間の原則とはどのようなものか
労働時間に関しては、労働基準法第32条にその定めがあります。
原則として、使用者は、労働者に1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて労働させてはならないとされています。むろん、これは休憩時間を除いた時間のことです。
また、少なくとも毎週1日の休日、あるいは、4週間を通じて4日以上の休日を与えなくてはならないとされています。
特例措置として、1日につき8時間、1週間につき44時間まで労働させることが認められている事業場もあります。
商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業であり、事業場の規模が10人未満の事業場が、この特例措置の対象となっています。
実際に働くとなると、時間外労働(残業)が発生する場合があります。
使用者が労働者に時間外労働をさせるためには、「時間外労働協定」いわゆる「36(サブロク)協定」という労使協定を締結し、行政官庁に届け出なくてはなりません。
労使協定とは、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、書面により締結する協定を言います。
また、時間外労働時間には、上限が設けられています。ですから、36協定を締結して届け出たからといって、使用者は際限なく時間外労働をさせられるわけではありません。
変形労働時間制とは具体的にどのようなものか
前項でご説明した労働時間は、あくまでも原則です。
変形労働時間制とは、特定の日または週に、法定労働時間を超えて労働させられる制度です。
ただし、一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が、法定の労働時間を超えない範囲内でなくてはなりません。
変形労働時間制には、下記の3つがあります。
- ●1週間単位
1週間の各日の労働時間をあらかじめ労働者に通知することで、1日につき10時間まで労働させることができます。
- ●1カ月単位
1カ月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が、法定労働時間を超えない範囲内で、特定の週・日において、法定労働時間を超えて労働させられます。
- ●1年単位
1年以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が、法定労働時間を超えない範囲内で、特定の週・日において、法定労働時間を超えて労働させられます。
変形労働時間制を導入するためには、労使協定の締結および届け出や、就業規則の記載など、事業場での定めが前もって必要となります。
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とはどのようなものか
みなし労働時間制に関しては、労働基準法第38条にその定めがあります。
みなし労働時間制とは、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、労働時間の算定が難しい場合に、所定労働時間労働したものとみなすという制度です。
ただし、その業務を遂行するために通常の所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、厚生労働省令で定めにより、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働をしたとみなされるとしています。
変形労働時間制と同じように、みなし労働時間制も導入するためには、労使協定または就業規則など、事業場での定めが必要となります。
また、みなし労働時間制を導入していても、通常の所定労働時間を超えて労働する場合には、36協定の締結と届け出をしなくてはなりません。
みなし労働時間制とは具体的にどのようなものか
具体的には、みなし労働時間制には、下記の3つがあります。
- ●事業場外みなし労働時間制
事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合に、原則として、所定労働時間労働したものとみなします。
- ●専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などに関して、使用者が具体的な指示をしない業務について、実際の労働時間数にかかわらず、労使協定で定めた労働時間数を働いたものとみなします。
専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、厚生労働省令および厚生労働大臣告示に定められた19業務に限られています。たとえば、以下のような業務です。
・衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
・弁護士の業務
- ●企画業務型裁量労働制
事業運営の企画、立案、調査および分析の業務であって、業務遂行の手段や時間配分などに関して、使用者が具体的な指示をしない業務について、実際の労働時間数にかかわらず、労使委員会で定めた労働時間数を働いたものとみなします。
「労使委員会」とは、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成される委員会です。労働者を代表する委員が、半数以上を占めていなくてはなりません。
企画業務型裁量労働制の対象となる事業場は、本社・本店にあたる事業場、もしくは、事業の運営に大きな影響をおよぼす決定が行われる事業場などに限られています。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とはどのようなものか
フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業時刻・終業時刻を自主的に決定することができるという制度です。
ただし、その清算期間を平均して1週間あたりの労働時間が、法定の労働時間を超えてはいけません。
また、清算期間は1カ月以内でなくてはならないとされています。毎月1日から末日までと定めるなど、その長さと起算日を明確にすることが必要です。
たとえば、始業時刻は使用者が決定して、労働者が自主的に決定できるのは終業時刻だけという制度では、フレックスタイム制とは言えません。
1週間の労働日のうち4日だけフレックスタイム制を導入したり、特定の日について始業時刻・終業時刻を使用者が指定したりすることも認められていません。
フレックスタイム制を導入するためには、就業規則などにより、フレックスタイム制度を導入することを定めた上で、労使協定を締結することも必要となります。
労使協定では、フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲を明確に定めておかなくてはなりません。すべての労働者を対象とすることもできますし、特定の職種の労働者、特定の課といった範囲の定め方も可能です。
フレックスタイム制の具体的な取り扱いとはどのようなものか
フレックスタイム制というと、「フレキシブルタイム」や「コアタイム」という言葉を思い浮かべる人もいるかもしれません。
フレキシブルタイムやコアタイムは、必ず設定しなければいけないわけではありません。ですが、設定する場合は、労使協定でその開始時刻・終業時刻を定める必要があります。
また、フレックスタイム制であっても、時間外労働というものは発生します。
フレックスタイム制を導入した場合の時間外労働とは、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間を言います。つまり、1日ごとに時間外労働か否かを判断するわけではないのです。
36協定においても、清算期間を通算して時間外労働が可能となる時間を定めればよいとされています。
さらに、フレックスタイム制を導入した場合、清算期間において、実際の労働時間とあらかじめ定めた総労働時間とのあいだに、過不足が生じることもありえます。
- ●実際の労働時間に過剰があった場合
過剰分は、その清算期間内で清算する必要があります。次の清算期間の総労働時間の一部に充当することは、認められていません。
- ●実際の労働時間に不足があった場合
不足分を加えた次の総労働時間が、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、下記の2つの方法があります。
・不足分を次に繰り越して清算する
・不足分に相当する賃金を減額する