正規雇用の職に就けず、やむを得ず非正規雇用で働いている人も、少なからずいることでしょう。
パートタイム・有期雇用労働法という、パートタイム労働者や有期雇用労働者を対象とする法律もあるくらいです。
この記事では、パートタイム・有期雇用労働法の要点と、有期契約労働者の無期転換ルール について解説します。
パートタイム・有期雇用労働法について
パートタイム・有期雇用労働法とは、正式には「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」という法律です。
パートタイム労働者や有期雇用労働者が、能力を有効に発揮できるようにすることで、その福祉の増進を図り、経済および社会の発展に寄与することを目的としています。
2020年4月1日から施行されていましたが、2021年4月1日からは中小企業でも適用されるようになりました。つまり現在は、企業の規模にかかわらず、すべての企業が守らなくてはならない法律なのです。
厚生労働省の資料によれば、パートタイム労働者は雇用者全体の約30パーセント、有期雇用労働者は約25パーセントを占めています。
少子高齢化に伴って労働力人口が減少していくなかで、いずれも増加傾向にあるとされています。
なお、「パートタイム労働者」とは、同一の事業主に雇用される通常の労働者と比べて、1週間の所定労働時間が短い労働者を指します。「有期雇用労働者」とは、文字どおり、期間に定めのある労働契約を締結している労働者のことです。
また、「通常の労働者」とは、正社員と呼ばれる正規労働者や、労働契約の期間に定めのないフルタイム労働者を言います。
パートタイム労働者や有期雇用労働者には、通常の労働者と比べて、働きや貢献に見合った待遇を与えられていない、雇用が安定していないなどの問題があります。
労働基準法において、事業主には、労働契約の締結に際して労働条件を明示することが義務づけられています。契約期間や賃金の決定・計算・支払いの方法など、一定の事項については、書面の交付などにより明示しなくてはなりません。
パートタイム・有期雇用労働法においては、これらに加えて、昇給・退職手当・賞与の有無についても、書面の交付などによる明示が義務づけられています。
パートタイム・有期雇用労働法では、パートタイム労働者・有期雇用労働者について、通常の労働者と均衡のとれた、公正な待遇を実現することを目的としています。
これがいわゆる「同一労働同一賃金」であり、パートタイム・有期雇用労働法の要点の1つです。次項でくわしくご説明します。
また、パートタイム労働者や有期雇用労働者を、通常の労働者へ転換するチャンスを与えることとされています。
同一労働同一賃金について
同一労働同一賃金とは、同一企業において、パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者の間で、あらゆる待遇について不合理な差を設けることを禁止したものです。
ここで言う「待遇」とは、基本給や賞与、各種手当などの賃金だけでなく、福利厚生や教育訓練なども含みます。
たとえば、基本給に関して言えば、労働者の能力や経験に応じて支払うもの、業績や成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、それぞれの趣旨・性格を鑑みたうえで、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をしなくてはならないとされています。
もし、パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者の間で、賃金を決定するための基準やルールに違いがあるならば、それが不合理なものであってはなりません。主観的・抽象的な説明ではなく、職務内容などの事情に照らした、客観的・具体的な説明がなされなくてはならないのです。
福利厚生に関しても、食堂や更衣室などの福利厚生施設の利用や、慶弔休暇・病気休職の付与・利用について、同一でなくてはならないとされています。
教育訓練も、現在の職務に必要な技能・知識を習得するためのものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施をしなくてはなりません。
通常の労働者との間に待遇差があると感じても、それが同一労働同一賃金で禁じている不合理な待遇差なのかどうか、判断に迷うときもあるでしょう。
パートタイム労働者・有期雇用労働者は、通常の労働者との待遇差に関して疑問があれば、事業主に説明を求めることができます。事業主は、この求めを拒否できません。
事業主には、雇い入れのときに説明義務が課される事項と、説明を求められたとき説明義務が課される事項があります。
説明義務が課される事項には、たとえば、以下のようなものがあります。
- ●不合理な待遇の禁止
- ●通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止
- ●通常の労働者との間の待遇の相違の内容および理由
- ●賃金
- ●教育訓練
- ●福利厚生施設
- ●通常の労働者への転換
とはいえ、会社内で直接は質問しにくい、あるいは、事業主がきちんと説明してくれないということも考えられます。
その場合は、都道府県の労働局に無料で相談することができます。
労働局では、行政による事業主への助言・指導だけでなく、裁判外紛争解決手続(行政ADR)も行っています。行政ADRを利用すれば、無料・非公開で紛争解決の手続きをすることが可能です。
無期転換ルールは、パートタイム・有期雇用労働法ではなく、「労働契約法」や「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」に基づくものです。
同一企業との有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者からの申し込みにより、無期労働契約に転換されることを、無期転換ルールと言います。
有期契約労働者が、無期転換の申し込みをしたとき、無期労働契約は成立します。企業は断ることができません。
逆に、有期労働契約が5年を超えて更新されても、有期契約労働者が無期転換の申し込みをしなければ、有期労働契約のままということになります。
無期転換の申し込みは、口頭で行っても法律上は有効です。ですが、労使トラブルを避けるためにも、書面による意思表示をして、記録を残しておく方がよいでしょう。
むろん、無期転換の申し込みをしても、すぐに無期労働契約に転換されるわけではありません。申し込みをしたときの有期労働契約が満了する日の翌日から、無期労働契約となります。
また、無期転換後の給与や待遇などの労働条件については、就業規則や個々の労働契約で定めがある事項を除いて、 直前の有期労働契約での労働条件がそのまま引き継がれるとされています。雇用形態についても、それぞれの会社ごとの制度に基づいて決まることになります。
パートタイム・有期雇用労働法では、すべてのパートタイム労働者・有期雇用労働者に対して、通常の労働者への転換を推進するための措置を講じることが、事業主に義務づけられています。
そのため、事業主は下記の措置のいずれかを講じなければいけません。
- ●通常の労働者を募集する場合、その募集内容を、すでに雇用しているパートタイム労働者・有期雇用労働者に周知する
- ●通常の労働者のポストを社内公募する場合、すでに雇用しているパートタイム労働者・有期雇用労働者にも、応募の機会を与える
- ●パートタイム労働者・有期雇用労働者が、通常の労働者へ転換するための試験制度を設ける
- ●その他、通常の労働者への転換を推進するための措置を講じる
また、転換を推進するために、どのような措置を講じているのか、事業主はあらかじめ、パートタイム労働者・有期雇用労働者に周知しておかなくてはなりません。
周知方法の一例を、挙げておきます。
- ●就業規則に記載する
- ●労働条件通知書に記載する
- ●事業所内の掲示板で掲示する
- ●資料を回覧する
- ●社内メールやイントラネットで告知する
- ●給与袋に資料を同封する
パートタイム労働者・有期雇用労働者だからと言って、通常の労働者との不合理な待遇差を、甘んじて受け入れなくてはならないわけではありません。
同一労働同一賃金のガイドラインには、一度目を通しておくことをおすすめします。
また、通常の労働者への転換の道も、ないわけではありません。
通常の労働者への転換を希望しているパートタイム労働者・有期雇用労働者は、事業主が発信する情報を見逃さないように注意してください。
▼参考URL
- https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000815429.pdf
- https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000076_20200601_501AC0000000024
- https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000759148.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000470304.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21917.html
- https://muki.mhlw.go.jp/part_time_job/
- https://muki.mhlw.go.jp/part_time_job/qa/