新型コロナウイルスの流行により、テレワークという働き方が一気に広がりました。自宅で仕事をするなど、今までにない体験をしている労働者も少なくないでしょう。
テレワークとなり、仕事をする場所が変わっても、労災が認められる場合があります。この記事では、テレワークと労災について解説します。
テレワークとはどういう働き方か
テレワークとは、インターネットなどのテクノロジーを活用した、就業場所にとらわれない働き方です。働く場所によって、以下の3種類にわかれます。
個別労働紛争解決制度には、以下の3つが設けられています。
- ●在宅勤務
- ●モバイルワーク
- ●サテライトオフィス勤務
オフィスに出勤せず、自宅を就業場所とする働き方です。
終日在宅勤務だけでなく、一旦はオフィスに出勤する半日在宅勤務や部分在宅勤務もあります。
顧客先、出張先の宿泊施設、交通機関の車内、カフェなどを就業場所とする働き方です。
新幹線などで移動中に車内で仕事をする場合、モバイルワークに該当します。
会社のサテライトオフィスや、共同利用型のテレワークセンターを就業場所とする働き方です。
シェアオフィスやコワーキングスペースでの勤務は、サテライトオフィス勤務に該当します。
テレワークの導入に際して、トラブルを未然に防ぐためにも、会社はルールを明確に定めなくてはなりません。
そのため、テレワークに関する就業規則を作成する必要があります。
既存の就業規則にテレワークについての記載を加えるという方法もありますし、テレワークに特化した規程を新たに作るという方法もあります。
明記すべき規定としては、以下のようなものが挙げられます。
- ●テレワークを命じることについて
- ●テレワーク用の労働時間を定める場合は、その労働時間について
- ●通信費や光熱費などの労働者の負担について
労災保険とは、業務上の事由または通勤による労働者の傷病等(負傷や疾病、障害、死亡)に対して、保険給付を行う制度です。
「業務上」とは、業務と傷病等のあいだに一定の因果関係があることを言います。
労災には、以下の2種類があります。
- ●業務災害
- ●通勤災害
業務を原因とする傷病等を指します。
就業時間中であっても、私的行為や業務を逸脱する恣意的行為によるものは、業務災害として認められません。
ただし、トイレなどの生理的行為については、業務に付随する行為とみなされますので、このときに生じたものは業務災害となります。
通勤による傷病等を指します。
「通勤」とは、就業のために合理的な経路および方法で行う、住居と就業場所との往復、就業場所から他の就業場所への移動を言います。
経路を逸脱したり移動を中断したりしているあいだ、およびその後の移動は、通勤とはみなされません。
ただし、経路付近の公衆トイレに入ったり、経路上でタバコや飲み物を買ったりするささいな行為は逸脱や中断とはなりません。
労災で受けられる保険給付は多岐にわたります。
その中から、代表的なものをいくつか挙げてみましょう。通勤災害の場合は、各給付名に「補償」が付きます。
- ●療養(補償)等給付
- ●休業(補償)等給付
- ●障害(補償)等年金
- ●障害(補償)等一時金
業務災害または通勤災害による傷病で療養する時、受給できる給付です。
必要な療養費が支給されます。
業務災害または通勤災害による傷病の療養で働くことができず賃金を受けられない時、受給できる給付です。
休業4日目から、休業1日につき、休業特別支給金と併せて、給付基礎日額のパーセント相当額が支給されます。
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った時、受給できる給付です。
障害の等級に応じて、障害特別年金と併せて、給付基礎日額および算定基礎日額の313日分から131日分の年金が支給されます。さらに、障害特別支給金として、障害の等級に応じて342万円から159万円の一時金も支給されます。
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った時、受給できる給付です。
障害の等級に応じて、障害特別一時金と併せて、給付基礎日額および算定基礎日額の503日分から56日分の一時金が支給されます。さらに、障害特別支給金として、障害の等級に応じて65万円から8万円の一時金も支給されます。
テレワークと言えども、労働者として働いている以上、労災の対象であることに変わりはありません。労災として認められるかどうかは、業務中であったか否か、業務に関係があるか否かで決まります。
テレワークにおいて考えられる労災申請の例を、いくつか挙げてみましょう。
- ●在宅勤務中に、自宅で転倒してケガをした場合
- ●在宅勤務中に、コロナに感染した場合
転倒の状況によって、業務災害として認められるかどうかが決まります。
・勤務中に離席してトイレに行き、ふたたび椅子に座ろうとして転倒した場合
→前述したとおり、トイレに行く行為は業務に付随するものとみなされますので、業務災害として認められます。
・勤務中に離席し、ベランダで洗濯物を取り込んでいて転倒した場合
・勤務中に個人宛の郵便物を受け取るために離席し、転倒した場合
上記2つのケースは、いずれも私的行為が転倒の原因なので、業務災害とは認められません。
コロナが労災の対象となるのは、業務による感染であることが明白な場合、または感染リスクが高い業務に従事し、それによって感染した蓋然性が高い場合です。
在宅勤務をしている労働者のコロナ感染が労災として認められる可能性は、低いと言わざるを得ません。
労災の保険給付の請求は、労働者が管轄の労働基準監督署に対して行います。
労災の保険給付請求書は、厚生労働省のホームページに掲載されていますので、ダウンロード、印刷して利用することが可能です。
また、労働基準監督署の所在地についても、厚生労働省のホームページに一覧が掲載されています。
保険給付の請求書には、事業主と医師などの診療担当者の証明が必要です。事業主は労働者から証明を求められた時は、すみやかに応じなくてはなりません。
これは、労働者災害補償保険法施行規則第23条2項に明記されています。
まれに、事業主が労災の証明を拒むことがあります。ですが、事業主の証明がなくても、労災の申請はできます。
会社が労災の証明を拒否した旨を、労働基準監督署の窓口で説明するなり、事情を記載した文書を請求書に添えて提出するなりしましょう。
労働者の申請が認められて、保険給付を受けられるかどうかは、労働基準監督署の判断次第です。
コロナ禍をきっかけに、労働者の働き方、就業環境は大きく変わりました。今後、テレワークが当たり前の働き方として、定着していく可能性もじゅうぶんにあります。
傷病に見舞われないに越したことはありませんが、何が起きるかわかりません。せっかく受給できる労災の保険給付をもらい損ねないよう、テレワークと労災について、きちんと知っておいて損はないでしょう。